全職員で学ぶ「親業」
親業とは
保育士と子どもとの心のつながりをどのように築いていったらよいのかを学びます。
「子どもの心の声に耳を傾ける」「子どもの出しているサインを見落とさない」「わたしの気持ちを素直に表す」等々、子どもの心に寄り添う保育を第一に考えたコミュニケーションの取り方です。
※親業は、アメリカの臨床心理学者トマス・ゴードン博士(1918-2002)が開発したコミュニケーションプログラム(ゴードンメソッド)です。単に親子関係に限らず、人間関係一般に適用でき、「教師学講座」も開かれています。
親業の講座で学ぶ
親業は、その考え方・実践の方法を体験学習(ロールプレイング)しながら学びます。本園の職員が、園内あるいは園外の講座・事例研究会に参加し、実践報告したいくつかの事例をご紹介します。
事例の紹介
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事例1 「ママがいいんだね」と子どもの気持ちを受け止める
4歳児のM子は、給食のときポロポロと涙を流している。そこで保育者が声をかける。
「どうしたの?」
(涙が止まらない)
「何かあったの?」
「さびしくなっちゃった。ママがいい」
「ママがいいんだね。先生でよければ抱っこしようか?」
「うん」
(しばらく抱っこして)
「ごはん、食べられる?」
「食べられる」
― その後は笑顔になり、ご飯を食べて帰りまで元気に過ごした。
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事例2 子どもの思いを聞くことで、気持ちを切りかえていった5歳児の例
4歳児から入園したSくん。「ママが忙しくなると荒れて、辺りのものをけったりたたいたりする」と前の担任から引き継ぎがあった。そこで5歳児の担任になってすぐに…、
「Sくん、毎日いっぱいお話してくれる?困ったことがあったら何でも先生に話してね」
するとSくんは甘えるようになり、保育者にたくさんスキンシップを求めてくる。それに応えているうちに、Sくんは表情も柔らかくなり、たくさん話してくれるようになった。時々は不安定になることもあるが、気持ちの切りかえが早くなっている。
― Sくん以外にも、泣いたり、いじけている時に、保育者が想いを聞くことで、気持ちを切りかえ、自分から次の活動に入っていくことができるようになっている。
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事例3 子どもと保育者の考えが対立した場合、どう対立を解消していくか
「じゃあ、Tくんは、どこなら寝られるの?」
2歳児のTくんはお話が大好き。午睡の時間なのに話し続けるので、周りのお友だちも「うるさい」「お話やめて」と布団をかぶって耳をふさぐ。そこでTくんに…、「あっちで寝る?」(少し離れた場所を保育者が提案)
「やだ!」「あっちはやだ!」
「じゃあTくん、どこなら寝られるの?」(能動的に聞き解決策を引き出す)
(保育者が提案した場所の向かい側を指さし)「あっち」
「Tくん、ここなら寝られるの?」
「うん!」(布団を一緒に運び、すぐに寝つく)
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事例4 保護者も加わり、「ゴードンメソッド」を使った例
「えっ! そうだったの? じゃあ、ママが“ごめんねだ!”」
登園時、5歳児のYくん親子が険しい顔つきで何か言い合いながらやってくる。玄関に着くと、親子でにらみ合っている。「何かあったのかな?」(Yくんに視線を合わせてたずねる)
「ママがわかってくれないんだ」
「ママに分かってほしいことがあるんだね」
「ママは、ぼくがわかってないって言うんだ」
「Yくんがわかってないっていわれるのが、いやなのかな?」
「そうだよ」
「Yがわかってないって、何がなの?」
「Yくんが何をわかってほしいか、ママはわからないんですね」
「そうなんです。Yが怒っちゃって」
「ママがわかってないって言うから怒るんだよ」
「何をわかってないと言われて嫌だったの?」
「ぼくは、急がなくちゃいけないってわかってるんだよ。なのにママが、ぼくがわかってない、早くしろって言うから」「僕は、わかっていて早くしたいのに遅くなっちゃうんだよ」
「そうか、Yくんは早くしなくちゃいけないってわかってるんだね」
「えっ? そうだったの?じゃあ、ママが“ごめんねだ!”」
(ママを見て笑顔)
「ママは、Yがわかっていないって思っていた。ごめんね」(Yを抱きしめる)
(嬉しそうに)「ママ、いいよ。僕も遅くてごめんね」
― 感動的な朝の一場面でした。
母親も「聞くという気持ち持つと、子どもはこんなにも変わるものなのか」と感心されていました。
「親業」や「教師学」を学び、子ども目線で接してくれる大人と幼い頃から過ごすことで、子どもはやる気をそがれることなく、自分で考え自分で行動できる、自立心を持った明るい子どもに育っていくのではないでしょうか。